元気になるオルソペディック ブログ
高齢者に対する椎間板内酵素注入療法
高齢者に対する椎間板内酵素注入療法について
大阪で開催された、第27回日本低侵襲脊椎外科学会で椎間板内酵素注入療法について発表してきました。今回は、高齢者の腰椎椎間板ヘルニアに対する椎間板内酵素注入療法についてご紹介します。この治療法は当院でも取り入れており、多くの患者さんに保存療法と手術療法の中間に位置する新たな選択肢として行っております。
椎間板内酵素注入療法とは?
椎間板内酵素注入療法は、2018年に日本で保険適用された新しい治療法です。この治療では、コンドリアーゼという酵素を椎間板内に直接注入します。この酵素が働くことで、髄核の中にある「プロテオグリカン」という物質の保水能力を下げ、椎間板内の圧力を低下させます。その結果、神経の圧迫が軽減し、腰痛や下肢の痛みが和らぐ効果があります。
高齢者にも適した治療
腰椎椎間板ヘルニアの治療では、従来は保存療法が効かない場合は手術が選択肢となっていました。しかし、高齢の患者さんにとっては、全身麻酔や手術そのものがリスクとなる場合があります。このような状況で、椎間板内酵素注入療法は保存療法と手術治療の中間的な治療法として注目されています。
当院での治療成績
当院では、2020年4月から2024年3月までに60歳以上の患者さんに対して椎間板内酵素注入療法を実施しました。その結果を基に、以下のような治療成績が得られています:
- 治療を受けた患者さんの約63%で、痛みの改善が見られました。
- フォローアップできた患者さんのうち、約62.7%で下肢の痛みが有意に改善しました(Numerical Rating Scaleで2以上の改善)。
- 一部の患者さんでは痛みの改善が不十分で、約17.3%の方が手術へ移行しました。
- 外来フォローできなかった患者さんにはがきで有効性があったか追加調査しました。21例中8例で返答があり、5例が効果あったとの返事でした。(62.5%)
メリットと課題
この治療法には以下のメリットがあります:
- 低侵襲:局所麻酔のみで施行でき、手術をしなくても症状改善が期待できる。
- 高齢者にも安全:全身麻酔が不要で、体への負担が少ない。
一方で、課題としてフォローアップ率が低い点が挙げられます。特に遠方の患者さんや家族の付き添いが難しい場合、治療後の経過観察が難しくなる傾向があります。
最後に
椎間板内酵素注入療法は、60歳未満の若い世代に比べると効果は若干劣るものの、高齢者の方々にとって有力な治療の選択肢です。「手術は避けたい」「保存療法だけでは不安」という方におすすめです。気になる方は、整形外科専門医にご相談ください。
腰や足の痛みでお困りの皆さんが、少しでも快適に過ごせるお手伝いができれば幸いです!
免責事項
- 当ブログの内容はブログ管理者の私的な考えに基づく部分があります。医療行為に関しては自己責任で行って頂くようお願いいたします。
- 当ブログの情報を利用して行う一切の行為や、損失・トラブル等に対して、当ブログの管理者は何ら責任を負うものではありません。
- 当ブログの内容は、予告なしに内容を変更あるいは削除する場合がありますのであらかじめご了承ください。
- 当ブログの情報を利用する場合は、免責事項に同意したものと致します。
- 当ブログ内の画像等は、本人の承諾を得て、個人が特定されないように匿名化して利用させて頂いております。
当ブログでの個別の医療相談は受け付けておりません。